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房一は鬼倉に向つて叮重ていちように云つた。
言葉つきは叮重だつたし、云つたことも何ら不自然ではなかつた。だが、その挑いどむやうな強い眼の色と全身に滲み出た一種圧迫的な怒気とはその表面の叮重さを明かに裏切つていた。効果は覿面てきめんだつた。
彼は近来今日ほど熱心に注意深く患者を診たことはなかつた。今までは単に顔見知りだといふにすぎなかつた高間道平といふ一介の老人、しなびた、日焼けのした肉体を、たゞそれだけでない、ふしぎと一脈のつながりあるものとして見た。それは又、この紅黒い、むくむくした房一にもつながつているものだつた。そのどこから来たとも知れない、ぐつと身体を近づけたやうな親しさを、今、練吉は隣りを歩いている房一に感じていた。
と、小谷が云つた。
「大きいやつだねえ」
「印度洋の方では、何とかいふ軍艦がたつた一隻で荒あばれまはつているんだつてね。それがちつとも捉つかまらないと云ふから面白いねえ」
彼はもう少しで最も善い友人に向ふやうに考へごとを打ち明けるところだつた。
私はもともとヌル湯好きで、いつまでつかっても汗のでない程度が好きだ。
「ふうん。ひどい奴だねえ」
道平は顎髯を剃り落してしまつていた。
「徳さんが新しいのを掛けてくれるまで待つていた方がいいかもしれませんね、これは」
「それで――?あゝ」
川では鮎漁がはじまつていた。